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気づくと、雨は少しだけ小降りになっていた。
くしゅん!
堪えたつもりのくしゃみは思いの外大きくて、それに気づいた槙はそっと傘を持ち上げて私を見下ろした。
「……大丈夫か?」
「……うん」
私…………もう、大丈夫みたい。
「あーぁ……槙にとんだ弱点握られちゃったなぁ」
私がため息混じりにそう呟くと、
槙は「お前……」と眉をひそめた。
せっかく俺が見てない振りしてやったのに、とでも思ってるんだろう。
だけど、もういいの。槙には隠しても仕方ないから。
「私だけ晒したんじゃ割に合わないから、槙もなんか弱点教えなさいよ!」
「はぁ?嫌だよ。お前意味わからん!」
アハハ、と笑い合って、何だかかなりスッキリしたかもしれない。これも槙のおかげだ。
「好き、だったなぁ……」
「……過去形にできるんだ?」
「うん……できる、っていうか、する」
「すげーな、篠田は。
……俺はいつまでも、過去形にはできそうもない」
槙が傘の柄を握る手にぎゅっと力を籠めたのを、至近距離で感じて顔をあげる。
「え?」
身体を向き合わせた槙の顔は、
4年以上の付き合いで一度も見たことのない表情をしていた。
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