196人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
昇降口から空を見上げて、困ったように頬を掻く恒祐。
周りには誰も居なく、どうやら一人のようだった。
傘、忘れたのかな……
私は、バッグの中の折り畳み傘を取り出して握り締めた。
さすがに、彼女持ちに一緒に入ってく?とは言えない。
だけど、傘を貸すくらいなら、いいよね?
『まじで?貸してくれんの?サンキュー遥香!』
きっと、恒祐はそう言って私に笑ってくれる。
その笑顔くらい、独占してもいいよね……?
「恒……」
「城戸くん!お待たせしました……!」
声を掛けようと一歩踏み出した瞬間……
反対側から現れたのは、彼女の奥原さん。
「紗也。大丈夫、全然待ってないよ」
チクリと胸が痛い。
奥原さんのこと、名前で呼ぶようになったんだ……
私は、下駄箱の陰から呆然と二人を見つめていた。
奥原さんが、薄ピンク色の可愛らしい花柄の傘を傘立てから取り出して、
二人は当たり前のように相合い傘をしながら、校門の方へと歩いて行った。
キツい、なぁ…………
右手にビニール傘、
左手には渡す宛が無くなった紺色の折り畳み傘。
お気に入りの傘のはずなのに、途端に地味で可愛気の無いものに見えてきてしまう。
ピンク色の傘の下で小さくなっていく二人の後ろ姿を、私はこれ以上目で追うことが出来なかった。
虚しさと切なさで、胸が張り裂けそう……
私は、ビニール傘の持ち手に貼ってある恒祐に笑われた絆創膏を、勢い任せに剥がした。
ほらね、元々傷なんてないんだから。
傷ついてなんか……ないんだから…………
最初のコメントを投稿しよう!