強がりは雨傘に隠して

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「恒祐が……?」 槙の問いかけに、私はフィッと顔を背けた。 「何だっけ、言おうとしたこと忘れた」 横を向いた拍子に、ふと、自分の肩に目が留まる。 ……全然濡れてない。 特別大きいわけでもないビニール傘に、大柄な槙と二人で入って、濡れないわけがないのに。 私はパッと振り返って、前屈みで槙の身体の反対側を覗き込んだ。 「うわっ、なんだよ!?」 一瞬怯んだ様子の槙が、ビクッとその大きな身体を震わせる。 槙の右肩はしっとりと雨に濡れて、 学ランの黒がより濃く染まっていた。 「……バカじゃないの?そんなに濡れて。 だから、一人ずつ傘させばよかったのに」 ……あぁ、なんて可愛気のない私。 なんでそんな風にしか言えないの。 素直に“ごめんね、ありがとう”と言えばいいのに…… こんなだから、ダメなんだよ。 こんなだから、恒祐にだって友達以上に思ってもらえなかった。 ―――突然、 学ランの右腕が顔の前に現れて、 私の目元を袖口でごしごしと擦った。 「ちょっ、何する……」 マスカラ取れる!と咄嗟に振り払った槙の袖には、小さな染みができていた。 え、待って。 それは……雨、じゃない……よね。 あれ……私、泣いてたの…………? 「……っ」 恒祐に彼女が出来たって嬉しそうに報告されたときも、 男友達にご機嫌に惚気る恒祐を端から見ていたときも、 一度も泣いたりしなかったのに。
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