ポインセチアの墓

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 ハイドレインジアは雲海に囲まれた霊峰アンブレアの山頂にあるため、雨季と乾季の天候の差が激しい。乾季にはあらゆる植物を枯らす大干ばつが起こすが、雨季には植物や家屋を流す豪雨が何日も降り続くため、宗派が二分した。 豪雨を降らす雨雲を災いとする側と、干ばつをもたらす太陽を災いとする側。双方が国の存亡をかけて起こしたのが紫陽花戦争でありカタツムリは影のさす国の兵士が跨がって戦ったことから「穢れから生まれた災いの使者に甲冑を付けたものだ」と日の当たる国に揶揄されている。  「女が災いの使者に乗って逃げたぞ! 逃がすなっ!」  屋根の付いた馬車に乗って、ハイドレインジアの兵が猛スピードで追いかけてくる。  「どうしてわたしが暗殺者呼ばわりされなきゃいけないの。黒龍さま、どうかわたしをお守り下さい、どうかわたしをお守り下さい」  ポインセチアは影のさす国が神とする黒龍に祈るが、ハイドレインジア兵に包囲されてしまう。カタツムリと馬とでは脚の速さの差は歴然である。  「ポインセチア・L・バリス。大人しく観念して我が軍に投降せよ」  「わたしは暗殺者ではない。ただ、紫陽花を持っていくように頼まれただけよ」  「それはこちらで話を聞こう。貴殿が暗殺者ではないと分かれば、解放する」  「わたしは庭師で、花売りして生計立てている一般市民よ。武器なんて何も持っていない。それでどうやって暗殺するというの?」  「それは......」ハイドレインジア兵が言い淀んだその時、大きな落雷が落ちてポインセチアと兵士のいる場所を眩しく照らした。  「この女、邪神に護られている。ここは一旦引くぞ、邪神に焼き殺されてしまう」  山頂に雷鳴が轟くなか、ハイドレインジアの兵は城に引き返して行った。
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