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「ナツキ君……どうして? 別に隠す必要はなかったんじゃない?」
今まで、どれだけ彼の瞳を見て話してみたいと願ったことか。
彼は緩く首を振り、目を伏せた。
「中学のときみたいに、アカリさんとまた話せるのが嬉しくて。誰だかわからないように隠してた。
俺は一度振られているし、この姿を見られたら余計に気まずくて、もう二度とアカリさんと話せないと思ったんだ」
ナツキ君の傷は私に告白した数ヶ月後、交通事故でできたものらしい。
「怖がられて、嫌われたら。立ち直れないと思った。だけど俺は、アカリさんのことがまだ好きだから、どうしても一緒にいたくて……」
「え」
「ごめん、本当に。今まで話をしてくれてありがとう。……楽しかった」
私へ背を向け、ナツキ君はゆっくりと歩き出す。それを呆然と見送りながら、私は唇を噛みしめた。
これまで彼は、人間関係の悩みを聞いてくれたり的確なアドバイスをしてくれたりして、ずっと私の心の支えになっていた。
それなのに……。
「待ってよ、ナツキ君」
私の呼びかけに、びくりと彼の肩が跳ねる。
「私だって、背中にアザがあって人には見られたくないし、声も低めで可愛くないし。たくさんコンプレックスがあるの。
だから、そのくらい全然気にならないよ。
……私はナツキ君の優しさを知っているから」
彼の瞳が戸惑うように揺れる。
「もっと、ナツキ君と話をしていたい。
これが、私の気持ちです」
さっき飛ばされたばかりの紙を差し出し、受け取った彼が読み終わるのを待つ。
その白い紙には、私の気持ちが記されていた。
『例えキミが誰であっても、いつも優しく話を聞いてくれるキミが好きです』
ナツキ君が手紙を閉じ、真っ直ぐに私を見つめる。
「……ありがとう」
雨上がりの紫陽花のそばで、初めて君が笑ってくれた。
-END-
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