蕎麦とパティシエと父と俺と

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片田舎の蕎麦屋を経営していた父に、本当はパティシエになりたかったんだよね~と呟いたことで、親子関係中最大規模の喧嘩を起こしたのがおよそ15年前。 そんな我が父が死んだのが1か月前、蕎麦屋経営続行を決めたのが3日前だ。 15年前の大喧嘩での父の主張と言えば、端的に言えば「やりたい事あるんだったら先に言ってよお!!」であった。 普段からぼさっとしていた俺であったし、言葉数少なで「おいお前、将来はどうするんだい、この蕎麦屋を継ぐのかい?」という軽い具合の打診に「うん、まあそれもいいね」なんて答えているうちに、あれよあれよと2代目になっていたのだ。 パティシエ自体はそれこそ子供のころから憧れではあったが、時折作る趣味のお菓子を齧ってみては、それで満足してしまっていたのである。 なので、まさかそんな大喧嘩に発展すると思わなかったのだ。それも「俺の仕事コケにしやがって」系の怒りならまだしも、「やりたい事あったならそっち行かせたわ」的なことを言われてはこっちだってどうすればいいのかわからない。よくよく考えれば、あれは喧嘩ではなくお説教だったかもしれない。 今からでも遅くないからお前修行に出たらどうだ、とせっつく父に、いやでも今が楽だしなどと言って嘆かれたことも記憶に新しい、いや15年前の記憶だけども。 結局何やかんやで蕎麦屋を続け、『お前の作ったプロの味のケーキが食べてみたいもんだ』やら、『アマでこれだけうまいんだから修行したらきっと世界一なのに』やら、素面のくせにごねる父に、今は亡き母がツッコミのチョップをかましたりしていたものだ。
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