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「な、何だぁ……!? 何が起きた、木偶の野郎がいきなり吹っ飛んだぞ!?」
「コレで小突いたのよ」
藍色の髪の少女が、腰に下げている細身の剣を軽く持ち上げながら翼の魔族へと親切に教えた。
この辺りの国では殆ど流通はしていないが、アレは『刀』と呼ばれる東の大国の武器である。
しかし、あんな細長い武器であの巨体をどうやって吹っ飛ばしたのかは説明出来ない。
尚、余談だが。
少女自身は軽鎧に短いスカートを着用している為、倒れたウィルの位置からは微妙に、丸みを帯びた白い逆三角形が見えてしまっている。
「リリィ~~っ! その人、大丈夫だった!?」
少し遅れて別の少女の声が聞こえた。
ウィルが振り返ると、黄金色の毛並みを持つ巨大な獣が真っ直ぐにコチラへと向かって来て、リリィと呼ばれた少女の隣で止まった。
獣には少女が跨がっていた。
丁度太陽の位置と重なり、顔は見えないが。
「腕と足に針が貫通していなければね」
リリィは魔族から目を離さずに、酷く落ち着いた口調で答える。
「そ、それって大変じゃない!」
慌てた様子でもう一人の少女が獣から降りた。
途端に、獣の足元に円状の赤い魔法陣が広がり、それに吸い込まれるように獣の姿が消える。
「そっちは任せたわ、アリス」
(アリス……?)
ウィルが心の中でもう一人の少女の名前を反芻した。
何故、そうしたのかは分からない。
無意識的なものだった。
アリスと呼ばれた少女はウィルに駆け寄り、優しく抱き起こしてくれた。
そこでようやく彼女の顔をハッキリと見る事が出来たのだが。
「……っ」
日の光を帯びた彼女は、傷の痛みを忘れる程に、何よりも美しかった。
陶器のように滑らかな白い肌に、ほんのりと上気した頬。
恐ろしく整った容姿と薄桃色の小さな唇。
細く可憐な指。
そして、夜空のように艶やかな漆黒の長い髪。
一瞬で、その全てに魅了されてしまった。
そしてコレも余談なのだが。
アリスの柔らかく豊満な胸が、今、ウィルの腕に密着している。
ウィルは顔を赤面させて固まった。
「おい木偶野郎、起きろ! 女だ! 二人もいるぞ!」
翼の魔族が金切り声を上げ、現実に引き戻す。
緑色の魔族がムクリと起き上がった。
「上玉だ、コレは当分楽しめるぞ!」
「あ~うん、けどさ。逃げた方が良いかな~」
「ああ!? 女を前にして逃げるだと!? 俺が直ぐに動けなくしてやるよ!」
翼の魔族の口元が一瞬輝いた。
危ない、とウィルが叫ぶ前に。
リリィの前方で短い火花が小さく弾け、折れた針が地面に落下した。
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