背中合わせ

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「あ、はは……何て言うか、その、学舎の物置部屋なんだ。『ロスト』は、寮に入れて貰えなくて」 「ほほぉ、物置部屋ですかぁ。気になりますなぁ、そそりますなぁ」 「え、アリス来るつもり!?」 「うんうん。ウィルが普段どんな生活してるのか、私見てみたいなぁ~」 「ええ……!? いや、物置部屋だよ?」 「良いじゃない、連れて行ってあげれば」 「う、う~ん。分かった、行ってみるね」  リリィの助け舟にアリスは笑みを強め、ウィルは少々困惑しているようだ。  普通、物置部屋で人は生活しない。  常識以前の問題である。  そんな所に人を、ましてや女の子を招くには恥じと抵抗もあるだろう。  それを全く気にしない牢獄育ちのアリスと違って、リリィにはちゃんとした教養が備わっていた。  それでもアリスに助力し、彼女の我が儘を後押しするのは。  アリスが残された時間と常に本気で真っ正面から向かい合い、何よりもウィルの事を真剣に想っていたからだ。  これからもこの先も、アリスは最後の時までその生き方を貫くだろう。 「リリィ、ありがとー」  振り返って小声でお礼を言うアリスは、何とも愛らしい。  その笑顔を見る度、彼女の願いを叶える度に、リリィは表情を曇らせ刀の柄を強く握り締める。  押し潰されそうになる心を、強く律する為に。  やがて、森が終わる頃。  遠方に巨大な外壁に覆われた大国が姿を現した。  ウィルの暮らす大国『メリディエス』である。  想い人の故郷にアリスが心踊らせる中、リリィは徐々に迫る決断の時に一抹の不安を抱いていた。 (私は、一体何を大切にすれば……)
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