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ゴミを掻き分けて床に上がろうとした時、右手の下駄箱に掛けられた赤い傘がふとアリスの目に留まった。半年前に勤め先の飲み屋の客と駆け落ちした母親の傘だ。
急に雨が降り出したような下校時、母親はよく赤い傘を差して校門でアリスを待っていた。赤い傘が目に飛び込むと、
「ママーっ!」と叫んで、アリスはその場でぴょんぴょんと2、3度跳ねた。パシャパシャと雨水が跳ねてアリスの運動靴を濡らした。
「アリスー、早く早く」と母親は綺麗な笑顔を見せて子供用の傘の柄を親指に引っかけ、残りの指で小さく手招きをした。
雲行きが怪しい日でもアリスはわざと傘を持って行かなかった。もしかしたら雨が降って、赤い傘を差した母親が校門で待っていてくれるかもしれない……と期待したからだ。
赤い傘は、自分を愛してくれる母親の存在の証明だったのだ。
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