恋宿

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「華族の殿方との食事だなんて、どうすればいいのかしら? 食事の礼儀作法なんて、よく分からないもの……」 父から許可を得たのはいいものの、華族との食事だなんて恐れ多く、今になって事の大きさに気づいた。 この宿屋にも華族はよく来るが、連れがいる。挨拶をして二言三言話をすることはあっても、食事などしたことない。 食事中に話をするのは無礼か、話をするにしても何を話せばいいのかなど、八重は頭を悩ませながら仕事をした。 そして夕餉の時刻になると、母と共に一番室に食事を運んだ。 「無礼のないようにね」 母は部屋の前に着くと、八重にそっと耳打ちした。 「頑張る……」 母は八重の返事に不安げな顔をするものの、すぐに切り替えて部屋に入った。 「夕餉をお持ち致しました」 八重と母は部屋の中央に、食事を向かい合わせにして置いた。 「娘が無礼を働いたら、すぐにお申し付けください」 母は深々と頭を下げる。 「礼儀正しい娘さんじゃないですか、大丈夫ですよ」 清一は苦笑した。 「秋月様はお優しい方ですね。ですが遠慮は無用です。では、私は失礼致します」 母はもう一度深々と頭を下げると、一番室から出ていった。 (あんなに頭を下げられたら、恥ずかしいじゃないの……) 八重は恥ずかしさのあまり、俯き気味で清一の向かいに座る。
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