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さすがにもう、とても眠れるような状態ではなくて――。
私は顔がどんどん火照っていくのを感じながら、そことは違う部分で、一人ドキドキしている自分のことを馬鹿だな、とか思ったりした。
私がこうして理人にときめいているこの瞬間も、彼は正木くんを牽制することばかり考えているはずなんだから。
何だかそう考えたら、彼を気遣う必要なんてないじゃない、と思ってしまった。
私は何も言わずにスッと理人から離れると、身体を起こしてシートに座り直す。
「葵咲?」
いきなり肩から私の気配が遠のいて、理人が怪訝そうな顔をした。
「こんなところじゃ眠れないよね」
途端、嬉しそうに正木くんがそう言葉を紡いだのが、何だかとっても腹立たしくて……。私は珍しく、感情のままに彼をキッと睨んだ。
いきなり私に睨みつけられた正木くんは、私の態度に刹那ひるんでから、一瞬だけ悲しそうな顔をした後で、視線を窓に転じる。
「――そろそろ、着きますね」
トンネルの中なので、何も景色なんて見えないはずなのに、じっと窓のほうを見つめたまま、正木くんが言う。
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