*嫉妬

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 案の定というべきか。  理人(りひと)は二人きりになれてからも、ずっと無言で。それでも私の手だけはまるで逃がさない、とでも言いたげにギュッと握ったまま歩き続けた。  片腕に自分の荷物だけでなく、私の荷物まで持ってくれている理人は、それでも私より歩くのが早くて……。  手を引かれるままに、私は小走りで彼について行くのが精一杯だった。 「理、人……?」  その沈黙がいたたまれなくて、私は息を切らして走りながらも恐る恐る彼に声をかける。  でも、無視されてしまった。  目的地のレンタカー屋さんは駅を出てすぐの所で、そんなに距離がなかったから何とかついて行けたけれど、もう少し距離があったら私は立ち止まってしまっていたかもしれない。  息を整えながら、事務所で手続きをする理人を所在無く見つめる。  彼が手配していたのは、いつも運転している愛車と同じ、トールタイプの軽ワゴン車――Nボックス――で。  手続きを終えた理人は、その車の助手席に私を押し込むように乗せると、荷物を後部座席に積み込んで、無言でエンジンをかける。 「――理人、怒ってるの?」  理人はとても整った顔立ちをしている。私の前ではいつも割とデレデレしていて失念しかけていたけれど、こうして無言で無表情な顔をされると、そのことを痛感させられる。  すごくカッコイイと思うけれど、今の理人は何だか怖くて近寄り難い。  いつの頃からか、男性らしく筋肉もついて肩幅も張った理人。背もどんどん高くなった。  180センチ近い彼の横に並ぶと、156センチしかない私は、気がつけばいつも彼を見上げるように見つめるようになっていた。  理人はその視線に気がつくと、いつもほんの少し顔を下向けて、私を優しく見つめ返してくれる。  それがくすぐったくて心地よくて……私は彼に愛されていることを実感できる。
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