*葵咲ばかり

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 結局旅館には洗濯施設はないということで、コインランドリーをスマホで探して行くことになった。  幸い天気は良かったので利用者は少なく、洗濯機も乾燥機も殆ど稼動していなかった。  所要時間は洗濯に30分、乾燥に20分。  私はずっと付いていなくても大丈夫だと思うよ、洗い上がりの頃に来て、乾燥機にインしたらまた乾燥が終わる頃までうろうろしていよう?って言ったんだけど……。  理人(りひと)は「下着が盗まれたらどうするの!」と譲らなかった。  変なところで(かたく)なな彼が愛しくもあり、正直面倒臭くもあり。  時計を見ると旅館にチェックイン出来る15時までだって、まだ2時間あって。 「お腹空かない?」  時刻はとっくに13時近くて。  色々あって気持ちが張っていて気付いてなかったけれど、昼食の時間をとうに過ぎていた。  ここまでの道すがら、近くにコンビニがあったっけ。 「何か買いに行こうよ」  洗濯も乾燥も稼働中はロックがかかっているから中身が取り出される心配はないよ?  そう言ったら、理人はやっと承知してくれた。  それでも「せっかく遠出をしたのにコンビニでいいの?」と乗り気ではなかったので、「夜はご馳走でしょう?」と告げてみた。  実際、予約した旅館の料理は美味しいと評判なんだ、と旅行前に理人が言っていた。 「だったらお昼は軽めのほうがいいし、ね?」  ニコッと笑って理人の手に軽く触れたら、その手をギュッと握り返された。  その力が結構強くて。 「……理人?」
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