3549人が本棚に入れています
本棚に追加
もう何回聞かされたか分からない台詞だけど、いつもと違うシチュエーションだからかな。
初めて言われたみたいに胸の奥がじん、と温かくなった。
「私も……理人が大好き……です」
しどろもどろになりながらそう返したら、理人が嬉しそうに微笑んだ。
***
夕飯は和食会席だった。
内風呂付の部屋に宿泊のお客さんのみが利用できるというお店――ダイニング桜庵――に移動しての食事。
私たちの部屋は一階に位置していたけれど、お店は六階なので、部屋とはまた違った眺望が愉しめるのも魅力のひとつらしいよ、と理人が言った。
店内は部屋と同様やはり和モダンな雰囲気で、畳の上にナラの木を材としたダイニングテーブルが10卓。テーブルには落ち着いた色合いのダークブラウンのウレタン塗装が施されていて、各テーブルに付属の椅子4脚も同じ色に統一されていた。
まるで、明治時代のレストランにタイムトリップしたかのような空間に、私は思わず溜息をつく。
「素敵ね」
横に立つ理人の顔を見上げて思わず感嘆の声を漏らすと、理人がニコッと笑い返してくれた。
――と。
「いらっしゃいませ」
入り口に入ってすぐのところに控えていた若い男性店員さんが、私たちに恭しく頭を垂れる。
その店員さんを見て、私も理人も一瞬にして固まってしまった。
「チケットを拝見します」
そう言って顔を上げて……理人がチェックインの際にフロントで渡されたチケットを差し出すのを受け取りながら、彼も動きを止める。
最初のコメントを投稿しよう!