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「理人と綺麗な景色を見ながら美味しいものが食べられるって……幸せすぎて怖いね~」
日頃は言えない様な言葉を、素直に外に出せてしまう。
私は子供の頃から肉より魚が好きな子で。理人はそれをしっかり覚えていてくれたみたい。
桜庵の夏の料理は魚が中心で、今日はスズキの杉板焼きがメイン料理だった。
そのほかにも、外食でしかお目にかかれないような、固形燃料に火をつけて上ものを温める道具を使っての釜飯の炊き上げとか、見ているだけでもワクワクの連続で。
非日常の雰囲気と、お酒の力が手伝って、私はいつもよりも楽しく食事をすることができた。
そんな私を見て、理人も始終ニコニコで。
まるで正木くんとの再会なんてなかったかのような、そんな時間が流れた。
***
食事を堪能した私たちは、仲良く手を繋いで桜庵を出る。
2人で、「美味しかったね」と話しながらエレベーターを待っていると、上がってきた箱の中に正木くんがいた。
まるで、店外での用事を済ませて帰ってきたばかりな雰囲気の正木くんに、すれ違いざま「頑張ってね」と声をかける。
さっきまで理人の陰に隠れているので精一杯だったのに、お酒の力って怖い。
すると、正木くんが「丸山、もう温泉入ったんだね。朝と服、違うよね?」と返してきてびっくりする。
その言葉に、一気に酔いが醒めてしまった。
慌てて口を開こうとしたけれどうまく言葉が出てこなくて……その間にエレベーターの扉が閉じてしまう。
と、同時に、理人に後ろからギュッと強く抱きしめられた。
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