*チェックイン

6/7
前へ
/624ページ
次へ
理人(りひと)と綺麗な景色を見ながら美味しいものが食べられるって……幸せすぎて怖いね~」  日頃は言えない様な言葉を、素直に外に出せてしまう。    私は子供の頃から肉より魚が好きな子で。理人はそれをしっかり覚えていてくれたみたい。  桜庵(さくらあん)の夏の料理は魚が中心で、今日はスズキの杉板焼きがメイン料理だった。  そのほかにも、外食でしかお目にかかれないような、固形燃料に火をつけて(うわ)ものを温める道具を使っての釜飯の炊き上げとか、見ているだけでもワクワクの連続で。  非日常の雰囲気と、お酒の力が手伝って、私はいつもよりも楽しく食事をすることができた。  そんな私を見て、理人も始終ニコニコで。  まるで正木くんとの再会なんてなかったかのような、そんな時間が流れた。 ***  食事を堪能した私たちは、仲良く手を繋いで桜庵(さくらあん)を出る。  2人で、「美味しかったね」と話しながらエレベーターを待っていると、上がってきた箱の中に正木くんがいた。  まるで、店外での用事を済ませて帰ってきたばかりな雰囲気の正木くんに、すれ違いざま「頑張ってね」と声をかける。  さっきまで理人の陰に隠れているので精一杯だったのに、お酒の力って怖い。  すると、正木くんが「丸山、もう温泉入ったんだね。朝と服、違うよね?」と返してきてびっくりする。  その言葉に、一気に酔いが()めてしまった。  慌てて口を開こうとしたけれどうまく言葉が出てこなくて……その間にエレベーターの扉が閉じてしまう。  と、同時に、理人に後ろからギュッと強く抱きしめられた。
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3549人が本棚に入れています
本棚に追加