*湯けむりのなか

4/14
前へ
/624ページ
次へ
 理人(りひと)は私をお風呂場の(ひのき)の床にそっと降ろして座らせると、身体に優しくお湯をかけてくれる。  私はすぐそばの理人の裸を見るのが恥ずかしくて、じっと床ばかりを見つめていた。  流れていくお湯を目で追いながら、そういえば……と思う。 (初めてのときも、終わった後で理人は私の身体にお湯をかけてくれた気がする)  いつもいつもしてもらってばかりで……なんだか申し訳ない、と思ってしまった。 「理人……私、も……」  気がついたら、思わずそう言っていて。 「ん?」  理人がお湯を汲む手を止めて私を見る。  私はゆっくり立ち上がると、「私も……理人にお湯、かけてあげたい……」と訴えてみた。  彼は一瞬瞳を見開いて私を見つめた後、にっこりと笑った。 「じゃあ、お願いしようかな」  そう言って床に座る。  私は彼の横にひざを付くと、理人から洗面器を受け取った。  お湯を汲んで彼の肩を流し始めたら、理人が私の胸に手を伸ばしてきて――。  いきなり敏感なところに触れられて、私の身体は水揚げされた魚みたいにビクンッと跳ねる。 「あんっ……」  思わず漏れた嬌声(きょうせい)が、お風呂場の中で思いのほか反響した。 (やだ、恥ずかしいっ)  洗面器を持つ手に思わず力が入った――。 「葵咲(きさき)、おいで」  と、理人に手を引っぱられて、私は洗面器を手にしたまま、彼の胸の中にすっぽり納まっていた。  そうしておいて、理人は私の手から洗面器を取ると、それを床に置く。 「少しだけ、このまま……」
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3549人が本棚に入れています
本棚に追加