*湯けむりのなか

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「ごめん、()(さき)っ。……僕、もう手加減してやれそうにない……っ」 「え……?」  理人(りひと)の切なげな声に、何?と思ったのと、それが私の身体を引き裂くように猛々(たけだけ)しく(つらぬ)いてきたのとがほぼ同時で。 「あぁっ、……んっ!」  油断していたとはいえ、いつもの理人からは考えられないくらい荒々しい突き上げ方に、私は一瞬呼吸を忘れてしまっていた。  浴槽の縁に下げていた頭を思わず持ち上げると、喉を()()らせて弓なりになる。同時に、身体がビクリと痙攣(けいれん)するように跳ねた。  そんな私を、逃がさないと言わんばかりの力で、理人がウエストを抱きかかえて腰を打ちつけてくる。 「――んっ、あっ、やぁっ、理人、激し……っ」  彼に翻弄(ほんろう)されながら抗議の声を上げる私に、せめてもの優しさのつもりだろうか。 「葵咲っ」  私の名前を熱に浮かされたように呼びながら、理人の右手が私の頭を包みこむ。まるで、彼に貫かれて前後に身体を揺らす私が、目の前の窓ガラスで頭を打たないようにするみたいに――。  頭にあった理人(りひと)の手がゆっくり首筋に下りてきて、(ゆる)く束ねた髪を()けるように撫でさすって、私のうなじを(さら)す。  お湯に濡れて張り付いた(おく)れ毛を丁寧に指でのけられた後、彼の吐息が耳元を(かす)めた。  と同時に、首筋に噛み付くようなキスを落とされて、口付けられたところを起点に、ねっとりと熱い舌の感触が鎖骨に向けて這い降りてくる。
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