理人の想い

5/14
前へ
/624ページ
次へ
 この旅館では、女性は色浴衣のレンタルがあって、理人(りひと)にもチェックインの際に好きなのを選べるよ?とそちらを勧められた。でも、私は彼とおそろいの浴衣が着たくて、あえて宿浴衣(やどゆかた)をチョイスした。  二人で同じデザインの浴衣を着られるとか……何だか一緒に旅行に来たという実感が沸いて、わくわくするじゃない?と言ったら、彼もにっこり笑って「じゃあ、そうしようか」と言ってくれたのだ。  私はSサイズ、理人はLサイズの浴衣にしてもらっていたので、二人で浴衣の(えり)の所についたタグを見て大きさを確認しあう。  手に取ってみると、浴衣はコットン素材で、肌触りが良かった。  どちらも白地に藍色で描かれた飾り(くさり)模様で、旅館で着る浴衣といえば……と思い浮かべたら誰もが知っているような、オーソドックスな(がら)だった。  女性には臙脂(えんじ)、男性には紺色の丹前帯(たんぜんおび)がセットになっていて。  温泉にくるということで、事前にインターネットで調べてみたら、女性は帯をウエストのところで元禄(げんろく)結びにするのが可愛いと書いてあったので、その通りにしてみる。  家で一生懸命練習した甲斐あって、結構うまく出来た!……と思う。  下着を一緒にして置いておかなかったから、一糸(いっし)(まと)わぬ上に浴衣、だけど後でこっそり身につければ大丈夫、かな?  そんなことを思いながら浴衣の合わせなどに気をつけて、一心不乱に帯を結んで理人を振り返ると、彼は既にそつなく着こなしていて――。
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3550人が本棚に入れています
本棚に追加