理人の想い

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 帯も、腰骨の上で貝の口結びがされていて、それが背中に回されている。  男性の場合は簡単に蝶結びでもいいと、ネットには書いてあったけれど、さらりと貝の口結びをしてしまうとか、理人(りひと)、さすがだなぁとか思って惚れ直してしまった。  でも、それは彼にしても同じだったみたいで。 「葵咲(きさき)、上手に着れたね。すごく可愛いよ」  と言った後、照れたようにはにかんで、 「僕、実は家で結構練習してきたんだけど、うまく出来てるかな?」  私のほうにくるりと背中を向けて、帯の具合を見せてくる。  その仕草がめちゃくちゃ可愛くて。 「バラしたら意味ないじゃん。――って言いながら、実はね、私も!」  理人を真似て、ウエストの帯をちょこんとつまんで見せると「変じゃない?」と聞いてみた。  二人して「似たもの同士だね」って笑いあって、何となくほっこりする。  私たちは今、浴衣姿のまま、向かい合わせに二人でベッドに座っている。  私も理人も何故か正座をしていて。  座布団でもないところに改まった様子で(かしこ)まっていることが、何だか余計に緊張感を高めた。 「……葵咲(きさき)、この旅行中、僕はキミに変なことばかりしてるよね」  ややしてポツン……と理人が口を開いた。  私は何も言わずに理人をただ見つめた。  何か言ってしまえば、彼が話し難くなる気がして。
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