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「ここに……」
図々しくも、私は理人の左手の薬指に、私の居場所を作ろうとしている。
さすがに、引かれてしまったかな?
不安に思いながら彼の返答を待っていたら――。
「葵咲っ!」
不意に、理人に強く抱きしめられた。
この反応は想定外で……私は彼の腕の中で少し戸惑う。
こ、これは……喜んでくれている……って思っていいの、かな?
浴衣なので、抱きしめられた眼前に、襟口からちらりと覗く理人の胸元が見えて、ドキドキしてしまう。
鼻をくすぐるお風呂上りの石鹸の香りも、いつもより少し高めに感じられる彼の体温も、私を緊張させる。
「葵咲は、本当にそれでいいの?」
ややして、私を抱く腕をほんの少し緩めると、理人が私の顔を覗き込むようにして問いかけてきた。
それでいいも何も……それは私が理人に聞きたいくらいで。
「そこに指輪を嵌める意味、キミは本当に分かっているの?」
左手の薬指に男女が嵌める指輪。
その意味を分かっているのか?と理人が真剣な顔で問うてくる。
「分かって、ます……」
改めて問われると、何だかとても照れくさくなってしまった。
耳まで一気にブワリと熱くなったのを感じながらそう答えると、理人がもう一度私をギュッと抱きしめてくれた。
「葵咲、有難う。っていうか……本当はそれ、僕から言いたかったな」
理人にポツンとそう言われて、私はハッとする。
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