*ちゃんと私を感じて欲しい

6/15
前へ
/624ページ
次へ
 涙に瞳を(うる)ませて彼を睨んだら、理人(りひと)が慌てたように「ごめん、(いじ)めすぎたね」と言って頭を撫でてきた。  私は、そんな理人を、なおも涙目で(にら)みつける。 「ねぇ葵咲(きさき)、そろそろ()れて……いい?」  ややして、理人(りひと)に甘くおねだりされたけれど、悔しくて返事をしなかったら、「お願い」と耳元でささやくように懇願(こんがん)された。 「……ゴムは?」  さっきのことがあるから、思わず聞いてしまってから、恥ずかしいことを口走ってしまったことに気付いて赤面する。  私のその様子に、理人がふっと瞳を細めて微笑んだ。 「大丈夫。持ってる……」  真っ赤になった私に、小さな四角い包みを複数個、トランプをババ抜きする時みたいに広げて見せながら、理人が言う。 「とりあえず手元に五つ。鞄に行けばもっとあるから……葵咲さえ望むなら、僕は何戦でもいけちゃうよ?」  わざと私の緊張を(ほぐ)すかのようにそう言うと、くすくすと笑った。  ゴムをベッドの(みや)に置くと、一旦身体を起こしてから、二人で向かい合うように座る。  前が肌蹴(はだけ)たままは恥ずかしかったので、両手で胸元を合わせるように持っていたら、理人が正面からそんな私をギュッと抱きしめてきた。 「ねぇ葵咲、僕の帯、(ほど)いてくれる?」  襟元(えりもと)を握ったままの私の両手をそっと外すと、自分の腰に巻きつけるように回しながらそう問いかけてくる。
/624ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3550人が本棚に入れています
本棚に追加