*ちゃんと私を感じて欲しい

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 博識(はくしき)理人(りひと)には愚問(ぐもん)だと分かっていながら、思わずそう聞いてしまった。 「ん~? ……葵咲(きさき)相手なら当然の状態って意味でしょう?」  何の(てら)いもなくそう返してくる理人に、私は余計に赤面させられる羽目に(おちい)る。  先の言葉は、「溺愛(できあい)盲愛(もうあい)」の例えで、「誰かを愛すると、その人の家にとまっている()(トリ)にまで愛が及ぶようになる」という意味の四字熟語で――。  先日読んでいた本でたまたま見かけて、凄い表現だなと思って記憶に留まった言葉だった。  でも、よくよく考えてみると、それは理人の私に対する日頃の態度にも通じていたから気になってしまったのだと、たった今気付かされてしまい、途端、物凄く照れてしまった。  「もう、馬鹿なことばかり言ってたらいつまで経っても理人の帯、(ほど)けないよっ?」  照れ隠しにそう言って、怒った振りをしながら彼を押し戻すように少し距離をあけたら、理人がきょとんとした顔をする。 「今更そんなに照れることないのに」  言われて気がついた。  私、耳も顔もとっても熱い……。きっと、どちらも真っ赤になってる……。 「言わない、で……」  小さな声でそう言って(うつむ)くと、私は前を隠すのもおろそかに、両手でほっぺを(おお)った。  ――と、理人にその手を取られて、あごを(すく)うようにして顔を上向けられる。 「僕に反応してこんなにも可愛く照れてくれている顔を隠すなんて勿体(もったい)ないこと、とてもじゃないけど容認できないな」
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