*ちゃんと私を感じて欲しい

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 私の濡れた浴衣の代わりに、自分が着ていたそれを持ってきて羽織らせてくれると、自分は手近にあったタオルで前を隠した。  その状態で彼に手を引かれて、またしてもお風呂に逆戻り。  お風呂場に入る前に、理人(りひと)が指輪を外してくれた。 「変色したらいけないからね」  っていう言葉とともに。  私は余りにも感じすぎたためか、全身が倦怠感(けんたいかん)に包まれていて……理人のそういう細やかな気遣いにとても助けられた。  多分、理人が気付かなかったら私、そのままお風呂に入って後悔する羽目になっていたと思う。  理人は私の気怠(けだる)い状態を敏感に感じ取って、その後は執拗(しつよう)には求めてこなかった。  理人自身はまだ結構元気なことは、くっ付いた時に感じたけれど、だからと言って彼は何もしようとはしてこなくて――。  理人のそういう紳士的な気遣いが、私にますます彼を愛しいと思わせる。  一緒に湯船に浸かりながら、少し落ち着いたところで、「理人、さっきの私……その……変、じゃなかった?」と恐る恐る聞いてみた。 「……?」  そんな私に、理人はきょとんとするばかり。 「あ、あのね……私が着てた浴衣、びしょびしょになっちゃった……から」  理人が分からないみたいだったので、もう少しだけ踏み込んだ聞き方をしてみる。  と、彼もさすがに察してくれたみたいで。 「まさか葵咲(きさき)、気にしていたの? あんなふうに濡れるのは、全然変じゃないし、(むし)ろ僕はキミがあんなふうになってくれて、嬉しかったよ」  にこやかに笑う。  理人が変じゃない、と言ってくれただけで……どうしてこんなにも心が穏やかになるんだろう。 「……よかった」  私はホッと溜息(ためいき)をつくようにそう言うと、情けないことにウトウトとまどろみの底に沈んでいった。  理人が、そんな私の髪の毛を、ずっと優しく撫でてくれていて――。  それさえも心地よくて、理人にもたれかかる様にして、私は束の間、意識を手放した。
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