ハプニング

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「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」  丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。 「あ、()……彼は……その、まだ寝てるの」  それで一人で売店に行こうとしたら迷子になっちゃって……と続けようとしたら、いきなり顔の横にドン!と手を付かれた。……おまけに(あご)(つか)まれて顔を上向けられてしまう。 「え、ちょッ、何!?」  びっくりして顔に掛けられた手を払いのけたら、「キスマーク」とぶっきら棒な口調で言われた。 「え?」  一瞬何のことを言われたのか分からなくてきょとんとしたら、正木(まさき)くんは自分の首元を指差して「首に(あざ)」と言った。  さっき、顔を上向けられたのは、痣を見るため?  得心(とくしん)はいったものの、彼の台詞に私は顔が熱くなるのを感じた。 「う、うそ……」 「嘘じゃねぇよ。くっきり付いてんだろ、キスマーク」  少なくとも昨日夕飯食いに桜庵(さくらあん)へ来たときにはなかった、と(つぶや)かれ。  正木くんがそこまでよく私を観察していたことに驚いてしまう。 「あ、こ、これは……」  言い訳しようにも何も思い浮かんでこなくて口ごもる。 「いや、別にさ、俺に言い訳する必要はないだろ。ただ――」  そこで私の瞳をじっと見つめると、「その彼、本当に丸山のこと、大事に思ってるの?」と聞かれた。  そんなことを言われたのは初めてで。 「何でそんなこと、言うの?」  理人(りひと)が私を大切に思っていないはずがない。  不安になるようなこと言わないでよ。
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