ハプニング

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()(ひと)……」  理人の顔を見た途端、私は安堵(あんど)でへたり込みそうになる。  それを、彼がギュッと抱きしめて支えてくれた。 「池本、さん」  恐らくさっき、理人に引き倒されたんだろう。  尻餅をつく格好で倒れていた正木くんが、理人を(にら)みつけながら立ち上がった。  私は、そんな正木くんが怖くて堪らなくて、理人の腕にしがみ付く。 「正木さん、キミは葵咲のクラスメイトじゃなかったんですか?」  理人が、殊更(ことさら)のところを強調して、そんな彼を牽制(けんせい)する。 「どうしてそんな単なる知り合いに過ぎないはずのキミが、僕の彼女に言い寄っていたのか、説明してもらえますか?」  理人の声音はとても落ち着いていた。けれど、実はそういう時のほうが怒っているのだと、私は経験上知っている。  理人は幼い頃から私のことになると、容赦(ようしゃ)ないところのある人だったから。 「お、俺だって――!」  と、今まで黙って理人を睨みつけていた正木くんが、(せき)を切ったように言い募る。 「俺だってずっと丸山のことが、好きだったんだ!!」  勢い込んで告げられた正木くんの告白を聞いて、私は驚いてしまう。  そんなの、知らなかった。  高校生の頃にだって、そんな素振りを見せられたことは微塵(みじん)もなかったし……、何よりも、私は今まで理人以外の男性から言い寄られた経験なんてなかったから。  そんな私を、彼から隠すように自分の背後に押しやると、理人が言う。
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