ハプニング

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「ずっと? たかだが数年で笑わせますね」  長さを言えば、それは理人に敵う相手なんて居ないと思う。それこそ家族の次に長く一緒にいる相手だから……。  でも、今の理人の言葉にはそれ以上の重さを感じてしまった。  幼い頃からことあるごとに私を守り、(いつく)しんでくれた理人(りひと)。  下手をすると、血を分けた家族以上に、彼は近い存在だったように思う。  一時、彼の私を想う気持ちが暴走しすぎて怖く思った時期もあったけれど……でも、正木(まさき)くんに迫られた時に感じたような嫌悪感は、一度たりとも抱いたことがなかった。 「葵咲(きさき)が魅力的なのは分かりますし、彼女に惹かれる気持ちも理解できます。でも――」  そこまで言うと、理人は正木くんに一歩近づいた。 「でも、何より腹立たしいのはキミが彼女を侮辱するような言葉を浴びせたことだ」  そこで私を腕に抱きしめると、理人は正木くんに高らかに宣言する。 「彼女が誰にでもキスを求めるような女性だと思ったんだとしたら大間違いだ。彼女がこういうことをされても嫌じゃないのは、、です。自分も許されるだなんて思い上がり、二度と(いだ)かないでもらえますか?」  そこで彼に見切りをつけたように(きびす)を返すと、理人は私の手を引いてそこから立ち去った。  私は、理人が私の気持ちを分かっていてくれたことが心の底から嬉しくて、彼に手を引かれながら泣いてしまいそうだった。 「理人(りひと)、服……」
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