ハプニング

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 しばらく彼に手を引かれて歩いていた私は、気持ちが落ち着いてきたと同時にあることに気が付いてしまう。  理人は、浴衣姿のままだった――。 「目が覚めたらキミがいないんだ。着替えてる暇なんてないに決まってるだろ?」  よく見れば、顔は洗っているみたいだけれど、ほんの少し寝癖も残ったままで……。  いつもビシッとしているイメージの理人だけに、その姿は本当に私のことを心配してくれたんだ、と分かるもので――。 「ごめんなさい……」  ほんの少しの距離だから、一人でも大丈夫だと思ったの……と付け加えたら、理人に怖い顔をされた。 「葵咲、キミは自分が方向音痴なこと、もっと自覚したほうがいい。……それに――」  怒られても、その通りだから何も言えなくて。言い返せなくて(うつむ)いていたら、繋いだ手をギュッと握り締められた。 「……それに――、同級生の彼がキミのことを意識していたのは丸分かりだったし、そんな中一人で出歩くとか……どれだけ自分の魅力に無自覚なの」  少し非難めいた口調。  思えば、正木くんに出会ってからずっと、理人はざわついていた。  私は、そんな彼の真意に気付いて、もっと配慮すべきだったのだ。 「ごめんなさい……」  何度謝っても謝り足りない気がした。  しゅんとしてそう(つぶや)いたら、そんな私を彼がギュッと抱きしめて、 「でも……本当、間に合ってよかった……」  心底ホッとしたようにそう告げる。  その言葉に、私は胸の奥がじん……と熱くなるのを感じた。 「理人、助けに来てくれて、本当にありがとう……」  あの時、もしも彼が来てくれなかったらと思った途端、足がすくんでしまうぐらい怖くなった。  力ずくで押さえつけられなくても、身動きが取れなくなってしまうことがあるんだと、私は身をもって実感したから。 「もう、大丈夫だから……」  気が付くと小さく震えていた私を気遣って、理人が優しく頭を撫でてくれる。  そうしながら、耳元で、 「だから二度と、僕の傍を離れるなよ?」  ――そう、言われた。
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