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「大丈夫」
彼を安心させようと理人の方を向いてニコッと微笑むと、
「無理しなくていいよ」
言われて優しく抱きしめられた。
「僕が……」
ややしてぽつんと理人が呟く。
「――ん?」
「僕が、葵咲にこんな印をつけたから……彼を刺激してしまったんだよね。本当、ごめん」
言って、私の首筋の痣に触れた。
「んっ」
途端、ゾクゾクとした快感が身体を突き抜けて、思わず声が漏れる。
確か、この痕は昨日夕食後にエレベーターで付けられたものだ。
あの時、私が正木くんの挑発を上手くかわすことが出来なかったから――。だから理人を不安にさせた。
「理人の……せいじゃないよ?」
さっきのことを彼はとても気にしていて……ともすると私より気に病んでいて――。その原因になったのが自分の行動のせいだと反省している節がある。
私はそんな理人が、正木くんが言うように自己顕示欲だけで私にこんなことをしたなんて思わない。
何より、理人が、正木くんの言動を気にしてしょんぼりしてしまうくらい私を想ってくれているということが、嬉しくて堪らなかった。
だから……。
私は理人にならどんなに恥ずかしい思いをさせられても何とも思わないし、寧ろ甘んじて受け入れたいとすら思ってしまう。
そう、理人だから――。
「理人、これは私にって、この指輪と同じだよ」
私の首筋に顔を埋める理人に見えているかは分からないけれど、左手の薬指を目の前に突き出して、そう宣言する。
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