僕の……

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 キラキラ光る手元を見つめながら、私は今もどこか夢見心地で……。信じられない気持ちで一杯で……。  気がつくと、自分の手を宙空(ちゅうくう)にかざしては()めつ(すが)めつしてしまう。  私が飽きもせず見つめている先――左手の薬指――には、理人(りひと)がくれた指輪が光っていた。  旅行から帰ってきてしばらく、理人は先の言葉通り、コレといったリアクションを起こすことなく、日々を過ごしていた。  休みになるたびにデートは重ねていたけれど、それは言うなればいつも通りの過ごし方で。楽しいけれど……旅先での言葉は夢だったのかな?とか思ってしまうぐらい変化に乏しいものだった。  それが一変したのは先日の逢瀬(おうせ)。  理人に連れられて行った先は、全国展開しているような有名ホテルの最上階にあるレストランで、見るからに高級そうな雰囲気のお店だった。  とはいえ、彼はいつも通りの見慣れたスーツ姿。  私はというと、彼とのデートの時はいつも少しお洒落をすることを心がけていて……。  その日はデコルテの辺りがレース素材で透け感のある、黒のロング丈ワンピースを着ていた。  髪は、まだ暑い折だったので、トップからざっくり編み込んで、毛先のほうをフィッシュボーンにしてから、それを黒いゴムで結い留めた。そのゴムを隠すように、甘くなり過ぎない印象の淡いピンクのシュシュが巻いてある。  取り立ててドレッシーにしてきたわけではないけれど、お店のドレスコードには引っかからなかったみたいで、入店を拒まれたりはしなかった。
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