■スタ特より『あなたには敵わない』■

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***  朝食を済ませてから食器を片した後、二人で寝室に向かう。  まだ電気は復旧していなくて、さっきスマホで確認したら、雪の重さで市内数カ所で電線が断線してしまったらしくて。 「こんなの初めてだね」  理人(りひと)も私もここで育った。この町での暮らしも十年以上になるけれど、ここまでの大雪は記憶にある中では初体験。  背後からギュッと私を抱きしめてくれる理人に、溜め息混じりにそうつぶやいたら、「そうだね」と耳元に吐息がかかる。  当然のように胸に伸びてくる手をやんわりかわすと、私は声の調子を変えて理人に語りかけた。 「ね、理人。しりとりしない?」  テレビも見られないし。  そう付け加えて、私を抱きしめる理人の手をギュッと握ったら、「しりとり? したいの?」と返ってきて。 「うん、子供の頃に、学校に行きながら二人でよくしたじゃない? 久しぶりにやってみたいなぁって」  ダメ?と背後を振り返って上目遣いで見上げたら、理人は「ダメじゃないよ?」と返してくれた。  うん、理人はやっぱり私に甘い。  きっと私のわざとらしい演技――上目遣い――なんてお見通しのくせに、そんな私に抗えないのもまた理人だから。 「じゃあ、私から行くね。昨夜から大雪のニュースで持ちきりだったから……大雪!と見せかけて……ニュースからスタートね」  言って、悪戯っぽくフフッと笑ったら、理人が一瞬驚いたように瞳を見開いてから、うっとりしたように目を(すが)めた。 「……好き」  次いで、いつもの調子で甘くそんな言葉を囁いてくるものだから、一瞬口説かれているのかと思ったんだけど。  あ、ニュースのス、からの繋がりだ。  私はハッとして「き、き……」と心の中で復唱する。 「あ、キャビア」  塩辛くてそんなに好きじゃないけれど、なんとなくあの艶々した見た目が綺麗で好き。バケットに乗せたりして食べると少し贅沢な気分になれる不思議な食材。
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