*僕はそれを我慢できない

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 髪の毛を引っ張られて立ち止まった葵咲(きさき)が、上目遣いで理人(りひと)を見上げてきた。 「ドライヤーかけなきゃ、なんだけど……暑くって。ちょっとだけ涼んでから、ね?」  パジャマにしているカットソーの胸元を引っ張ってパタパタと風を送りながら、葵咲が言う。  上から見下ろしている関係で、首元の隙間から葵咲の白い乳房のラインがちらりと見えて、理人は目のやり場に困った。 (これはもう、挑発されているとしか思えないんだけどっ!)  さっき、「自粛」の二文字を思い浮かべたくせに、その上に「無理」の二文字がドン!と乗っかったのが分かった。  理人ははぁーっと大きなため息をつくと、葵咲の手をグイッと引っ張った。 「えっ、ちょっ、理人(りひと)!?」  突然理人に手を引かれて、葵咲(きさき)が驚いたように瞳を見開く。  それでもさしたる抵抗も見せずに理人の腕の中にまんまと収まってしまったのは、常日頃から彼に翻弄(ほんろう)され尽くしているからだろうか。 「ねえ理人、濡れちゃうよ?」  ソファに押し倒された葵咲が、眉根を寄せて理人を見上げる。  タオルドライしかしていない彼女の長い髪の毛はしっとりと濡れそぼっていて、ともすれば水滴がしたたるほどで。そのまま寝そべれば、確実にソファの生地を濡らしてしまう。 「葵咲、濡れちゃうのはソファだけ?」  彼女の言葉を軽く受け流してクスクス笑うと、理人が葵咲に顔を寄せる。 「バカ……」  つぶやかれるように吐き出された、照れを含んだ葵咲の声を唇ごと(ふさ)ぐと、理人は葵咲の胸元へ手を伸ばす。
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