サプライズ

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 やはり今日も、葵咲(きさき)ちゃんは歴史書の棚の前にいた。  カバンは重かったのかな。足元に置いてある。  とても真剣な顔をして本を選んでいるのを棚の本越しに盗み見て、思わず笑みがこぼれる。  三階辺りから、僕は歩調を緩めて余り音をたてないように階段を降りた。  このフロアに入って葵咲ちゃんの位置を確認してからは、ことさら静かに行動した。  床に貼られたフロアマットが音を吸収してくれるお陰で、足音もほとんどしなかったはずだ。  それで、すぐ背後に立つまで、葵咲ちゃんは僕の気配に気づかなかったらしい。  とりあえず、上から持って降りてきたニ冊の本を手近な書架に仮置きする。 「葵咲」  わざと少しトーンを落として背後から呼びかけながら抱きしめると、葵咲ちゃんの身体が瞬間ビクッと跳ね上がった。  刹那、抑えきれなかった「キャッ!」という短い悲鳴が上がる。僕にはそれすら愛しかった。  あまりに静かなフロアだったから、存外自分の声が響いたことに、葵咲ちゃんが耳を真っ赤にする。  まさか人気のないこのフロアで、間近からいきなり声をかけられて……あまつさえ抱きしめられるなんて思ってもいなかったんだろう。  彼女に回した腕に、トクトクと脈打つ彼女の鼓動が伝わってくる。 「……会いたかったよ」  後ろからわざと熱を持った耳に唇を寄せて囁けば、彼女の鼓動が更に早まった。  どさくさに紛れてブラウスの胸ボタンの隙間から柔らかな胸の谷間に人差し指を滑り込ませたら、驚いたように彼女が背後を振り向いた。  そこで初めて僕を確認すると 「……ホントに理人(りひと)……なの?」  信じられないものを見たという顔をする。 「久しぶりだね」  言いながら、指は彼女の胸元のボタンを外しにかかる。 「ちょっと、理人っ! お願いだから悪ふざけはやめてっ」  僕の指から素肌を遠ざけるように葵咲ちゃんが身じろぐ。僕はその動きに合わせて彼女の身体をくるりと自分と向き合うように回転させた。  彼女を書架に押しつけるように閉じ込めたまま、真正面から見下ろすように微笑むと、彼女の瞳が大きく見開かれる。  寸の間沈黙が流れた後、 「……どうして貴方がここに?」  至極(しごく)まともな問いかけがあった。
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