書庫の中*

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 葵咲(きさき)ちゃんは残酷だ。  ずっと一緒に過ごしてきたのは今更どうしようもないじゃないか。 「幼馴染みは恋愛対象にはなれないってこと?」  低く押し殺した声で問いかければ、こちらを見ないでこくんと首肯(しゅこう)する。 「僕の方を見て?」  その態度にどこか違和感を覚えて()えば、子供のようにイヤイヤをする。 「なんで?」  思わず葵咲ちゃんの細い両肩に手をかけると、 「だって理人(りひと)、初めて会った時、私にお兄ちゃんって呼べって言ったじゃない!」  刹那キッ!と睨みつけられた。  もしかして彼女、泣きそうなのを(こら)えてる?  何となくだけど、そんな気がした。 「……葵咲?」 「小さい頃は私のお兄ちゃんになるって言ったくせに……私が大きくなった途端いきなり男だと思えって……勝手すぎるよ……」  確かにそうだと思う。  でも、悪いけど僕は……彼女を妹だなんて思った事はただの一度もないんだ。  彼女に近づくためだけに兄の仮面を被っていたのは事実だけど、その仮面を被り続けろと言われても土台無理な話だ。 「じゃあ、葵咲は今でも僕を兄として見てると?」  問えば、葵咲ちゃんは唇をかみしめてうつむいてしまった。  そんなに力一杯唇を噛んだら噛み切ってしまうじゃないか。  そう思ったら、無意識に僕は彼女の顔を上向け、噛みしめられた唇の端に、自分の指を潜り込ませていた。  そうしてそのまま吸い寄せられるように口付ける。  突然キスしてきた僕を押しのけようと伸ばされた両手を掴むと、そのままひとつに束ねて書架に縫いとめる。  唇を割っていた指をのけると、その手で彼女の後ろ頭を抱えて、顔を少し上向かせるようにして口付けの角度を深くする。  そうしていてもなかなか口を開いてくれない彼女に焦れて、僕は一度唇を離して耳元に顔を寄せると 「口、開いて……」  そう言って、もう一度唇をふさいだ。
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