書庫の中*

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 外したままのボタンをひとつひとつ留めてから、 「暴走してごめん……」  彼女の耳元に唇を寄せて、ぽつん、とつぶやく。 「僕は君を前にするとどうしても抑えが利かなくなる。もしも本当に嫌なら殴ってくれても構わないから」  葵咲(きさき)ちゃんの身体を恐る恐る抱きしめながらそう言うと、彼女がこくりとうなずいた。  葵咲ちゃんが、足元に置いていたバッグを手に取ったのを合図に、僕も書架に仮置きしたままだった二冊の本を手に取った。 「また……ちゃんと話そう」  本の裏表紙に貼り付けられた書誌データのバーコードを見ながら、ついでのように付け加える。  じゃあね、とかバイバイとかではなく「また」というところを殊更(ことさら)意識して言葉を(つむ)いだ。  葵咲ちゃんがうなずくのを確認して、僕は本を手にその場を立ち去った。  本当は彼女のいるあたりがこの本の定位置なんだけど……今は、戻せそうにない。
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