書庫の中*

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 僕は結局二冊の本を手にしたまま、階段をワンフロア分のぼった。  幸い、ひとつ上のフロアにも、誰もいなかった。  それでも無意識に階段から一番奥まった棚の陰に入ると、僕は手にした本を書架に仮置きする。  そうして未だ熱を持ったままの自分の分身に、(しず)まれ……と願う。  本音を言えば、彼女を思いながら(たか)ぶる熱を吐き出してしまった方が楽になることは明白だったけれど、さすがに書庫でそんなことはできない。  彼女を抱きたい……。彼女に触れたい……。彼女を()めたい……。彼女に()れたい……。  息を吐き出しながら、そんな思いに飲まれそうになる自分を鼓舞(こぶ)する。  悶々(もんもん)とした思いのせいで、さっき触れた彼女の温もりをふいに思い出してしまい、更に下半身に熱が集まるのを感じた。  これは……まずい。なかなか収まりそうにない。  いくらなんでもこんな状態のまま、ロビーには戻れない。  かといってここで出してしまうわけにもいかないし。  書庫内に窓と机と椅子はおろか、トイレすらないここの構造を、今ほど呪ったことはない。  ふと思い立って、彼女が借りていた本を手に取ると、見るとはなしにページを繰る。  ぼんやり文字を追っていたら、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
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