書庫の中*

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 葵咲(きさき)ちゃんは、もう上にあがっただろうか。  今ロビーに行って彼女に出会ってしまったら、お互いちょっと気まずいな。  そんなことを考えながら、書架の間を二冊の本を片手に所在なく歩き回る。  もしも今、地震があったらどうなるだろう?  ふと、そんなことを思ったのは、ここが耳鳴りを覚えそうなほど静かで……あまりにも高い棚と、そこに並ぶ本の多さに気圧(けお)されたからかもしれない。  全ての棚の下には一応L字型の固定金具が取り付けられているけれど、できれば天井からの支えもあった方が安全だな。  書架と書架の隙間が狭いことを考えてみても、もしも棚がひとつでも倒れてしまったら、最悪ドミノ倒しになってしまって危険だ。  ここは一面が壁に覆われていて窓もないから書庫に降りたら携帯も圏外で、助けも容易には呼べないし。  今度、予算が取れるか上に掛け合ってみるか。  そんなことを思いながら棚と天井の隙間を見ていたら、オレンジの回転灯が光り始めた。  上からの呼び出しだ。  僕は少し考えて、一旦一階に降りて返し損ねていた本を正規の場所に戻してから、エレベーターで最上階を目ざした。
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