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「お母さんが庭に蒔いたコスモスの種を分けてくれたの」
桜の花が終わり、新緑が目にまぶしくなってきた頃、葵咲が夏咲きの「ソナタ」という品種のコスモスの種を丸山家から持ち帰ってきた。
ヒョロリと細長く、干からびたように見える種からは、およそあの可憐な花が咲いてくるようには見えなくて、理人は葵咲が手にした小袋に入った種を瞳を細めて見やる。
「これ、背があまり高くならない品種だから鉢植えでも大丈夫らしいの。……うちのベランダで育ててもいい?」
大好きな恋人から、眉根を寄せて不安そうに問いかけられては、彼女を溺愛している理人が反対できるはずがない。
「もちろん。鉢とか買ってこなくちゃいけないね」
言ったら、ホッとしたように「ありがとう」とニコッと微笑まれた。
それだけで、理人は舞い上がるくらい嬉しくて。
思わず緩みそうになってしまった顔を隠すため、足元にまとわりついていた愛猫をヒョイと抱き上げて、「うまく育つといいね〜」と艶やかな黒毛に頬を擦り寄せるようにして顔を伏せた。
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