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その日のうちに2人で8号サイズの素焼きの鉢や肥料、土などを買ってきて、帰宅するやいなや葵咲が待ちきれないみたいにいそいそと準備を整えて種まきをする。
「花が咲くの、すっごく楽しみっ」
鉢の前にしゃがみ込んで、泥のついた手をパタパタとはたきながら、葵咲が理人を仰ぎ見てきた。
理人はそんな葵咲の様子を、瞳を細めて見下ろす。
「私がもらってきたんだもん。材料の買い出しに付き合ってもらっただけで十分だよ」
葵咲は土入れなどに手を貸そうとした理人に、何故かそんな風に言って手出し無用とばかりに線引きをしてしまった。
そうして鉢に鉢底ネットを入れたり鉢底石を入れたり……果ては肥料や土を入れる様な力仕事も、全部ひとりでやってしまう。
指であけた小さな穴に、そっと慎重に種を落としては土を掛ける姿はまさに真剣そのもので。
理人はセレを胸に抱いたまま、そんな葵咲の横顔を眺めているしか出来なかったのが、本音を言うとちょっぴり寂しかったのだけれど。
結局、葵咲は最後までそんな理人の様子に気付くことなく、宙ぶらりんな気持ちだけがセレの頭を撫でる彼の手からこぼれ落ちた。
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