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「あっ! そういえば」
葵咲は全くそれに気づいた様子もなくポンッと手を打つと、
「コスモスの語源ってね、ギリシア語の〝美しい〟からきてるんだってお母さんが……。ねぇ理人、もしかしてそれ、知ってたの?」
先のつぶやきの対象が、まるで自分のことだなんて思い至っていなさそうな物言いに、理人は思わず苦笑する。
「葵咲、おいで」
窓辺に立つ葵咲のすぐそばで、理人はそっと両腕を広げてフィアンセを誘った。
「――理人?」
そんな理人を怪訝そうな顔で見上げながらも、葵咲が開いた腕の中に入ってきてくれて、理人は彼女の華奢な身体を宝物みたいに抱きしめる。
「ねぇ葵咲。お願いだから僕以外にあんまり夢中にならないで?」
そっと耳元でささやけば、葵咲がくすぐったそうに小さく身じろぎをした。
「でないと、キミが大事にしているコスモス、鉢から引っこ抜いてしまいたい衝動に駆られて怖いんだけど」
吐息まじりにやや低めた声音でそう言ったら、葵咲が息を呑んだのが分かった。
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