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「理人……違うの。私があれを大事にしてるのは――」
葵咲はキュッと理人の胸元を掴むと、彼からほんの少し距離をあけてから、そっと背伸びをして理人の両頬へ手を添える。
その仕草に理人が無意識に顔を下向けたら、ぐっと頬を挟まれて葵咲に唇を奪われた。
「んっ」
理人はそんな葵咲に一瞬だけ瞳を見開くと、すぐさま彼女の後頭部を鷲掴むようにしてキスの角度を深くする。
それを、葵咲はさしたる抵抗もなく受け入れて。
気が付けば、舌先が痺れるくらいに激しく唇を求められていた葵咲は、うっとりしたように熱に浮かされた目で理人を見上げた。
「理人。私があの花を大事にしなきゃって思ったのはね……コスモスの花言葉が〝愛情〟だったからなの」
手塩にかけて育てた、「愛情」を花言葉を冠するそれを、大好きな理人に見てもらいたかっただけ。
ただその一心だったのだ、と告白された理人は、「葵咲ちゃんはバカだ」とつぶやいた。
その言葉に葵咲が「え?」と驚いた声をあげたのを見て、
「花なんて介さずに、僕自身に愛情を注いでくれたらいいのに」
拗ねたように言ってから、それでもやっぱり彼女の気持ちはどんな形であれ嬉しくて。
「ねぇ、葵咲。これからは僕も、あの花を葵咲ちゃんみたいに可愛がっていい? 僕だって、キミに最上級の〝愛情〟を現したいよ。どうせ同じ目的なら、一緒に世話したほうが、2人の〝愛の結晶〟みたいで開花したとき何倍も素敵じゃない?」
さらりと恥ずかしいセリフを言う理人に、葵咲は思わず真っ赤になった顔を、彼の胸元に擦り付けて隠した。
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