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「――お帰りなさい、理人。お疲れ様」
はやる気持ちを一生懸命抑えながら、わざとエプロンで手を拭く仕草をしながらゆっくりと廊下に顔を出す。
「ただいま、葵咲っ」
そうしていつものように、自分を目にした途端、セレからスッと離れて廊下を大股で歩いてきた理人に、愛しくて堪らない!と言わんばかりにリビングを出てすぐの辺りでギュッと抱きしめられるのだ。
「とりあえず葵咲ちゃんを充電させてね」
甘えたように優しい声音でそう言いながら、腕の中の葵咲の匂いを胸いっぱい吸い込む理人に、葵咲はどうしてもいつもいつも照れてしまう。
理人みたいに大っぴらには吸い込めないけれど、自分だって彼に抱きしめられた腕の中で、大好きな理人の匂いを肺の隅々まで吸収中。
本当は、ずっとそうやって理人に抱きしめていてもらいたいくせに、心裏腹。
モジモジと身じろいで理人の腕からスルリとすり抜けると、葵咲は平常心を装って「甘えん坊さんね」と5つ年上の恋人を嗜めた。
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