■あなたがいちばん

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「あっ、え!? ちょっ、理人(りひと)!?」  手にしていたぬいぐるみを半ば強引にむしり取られて、葵咲(きさき)はますます困惑してしまう。 「こんなの、必要ない」  ばかりか、憮然(ぶぜん)とした態度で吐き捨てるようにそう言われて、ソファーにぬいぐるみを放り捨てられた葵咲は、勝手にこんな大きなぬいぐるみを買って来てしまったことを(とが)められたのかな?と思って。  確かにそこそこの大きさだし、オープンセールで割引きされていたとはいえ、それなりに高かった。  いつも事後報告でも理人が何も言わずに許してくれるから、自分は彼に甘えすぎていたのかも知れない。  考えてみれば、理人からやり繰りを任されている家計の9割以上は、理人の稼ぎで(まかな)われているのだ。  葵咲も、バイトをして補填(ほてん)したいと申し出たことがあるのだけれど、「キミは家事の大半をしてくれているのだから必要ない」「学生の本分は学業だろ?」などと(いさ)められ、言いくるめられてしまった。  葵咲の実家からの仕送りだって、なるべく手を付けずにそのまま置いておくように言われているし、「何故?」と問い掛けたら「キミの前では甲斐性(かいしょう)のある男でいたいからだよ」と左手の薬指に口付けられて。  きっと、理人なりに結婚後のあれこれをシミュレーションしたいんだろうなと思った葵咲は、畳み掛けるように「葵咲(きさき)が自立するまでは僕に養わせて欲しい」と切なげに()われるに至って、すっかりほだされてしまったのだ。  でも――。 (私、きっとそんな理人の優しさに寄りかかりすぎてしまったんだわ)  そう思い至った葵咲(きさき)は、 「何の相談もなくごめんなさい」  素直にそう謝った。
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