3540人が本棚に入れています
本棚に追加
/624ページ
「あっ、え!? ちょっ、理人!?」
手にしていたぬいぐるみを半ば強引にむしり取られて、葵咲はますます困惑してしまう。
「こんなの、必要ない」
ばかりか、憮然とした態度で吐き捨てるようにそう言われて、ソファーにぬいぐるみを放り捨てられた葵咲は、勝手にこんな大きなぬいぐるみを買って来てしまったことを咎められたのかな?と思って。
確かにそこそこの大きさだし、オープンセールで割引きされていたとはいえ、それなりに高かった。
いつも事後報告でも理人が何も言わずに許してくれるから、自分は彼に甘えすぎていたのかも知れない。
考えてみれば、理人からやり繰りを任されている家計の9割以上は、理人の稼ぎで賄われているのだ。
葵咲も、バイトをして補填したいと申し出たことがあるのだけれど、「キミは家事の大半をしてくれているのだから必要ない」「学生の本分は学業だろ?」などと諌められ、言いくるめられてしまった。
葵咲の実家からの仕送りだって、なるべく手を付けずにそのまま置いておくように言われているし、「何故?」と問い掛けたら「キミの前では甲斐性のある男でいたいからだよ」と左手の薬指に口付けられて。
きっと、理人なりに結婚後のあれこれをシミュレーションしたいんだろうなと思った葵咲は、畳み掛けるように「葵咲が自立するまでは僕に養わせて欲しい」と切なげに請われるに至って、すっかりほだされてしまったのだ。
でも――。
(私、きっとそんな理人の優しさに寄りかかりすぎてしまったんだわ)
そう思い至った葵咲は、
「何の相談もなくごめんなさい」
素直にそう謝った。
最初のコメントを投稿しよう!