選書

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 エレベーターの扉が開くと、果たしてそこには葵咲(きさき)ちゃんが立っていた。  今日は白地にローズピンクのチューリップがあしらわれた、女性らしい華やかなワンピースだ。素材はシフォンだろうか。  薄い生地が下着を薄ら透けさせていて、僕は何となく目のやり場に困った。  僕が一人でカウンターにいるのを認めると、彼女の方も少し驚いたような顔をして立ち止まる。  そういえば、僕がここで彼女を迎えるのは初めてだ。 「いらっしゃい」  何となくその雰囲気が気まずくて、僕は努めて明るい声で呼び掛けた。  その声に、葵咲ちゃんも弾かれたように歩きはじめる。  カウンターまで来てから、 「理人(りひと)、ホントにここの職員さんだったんだね」  悪戯っぽく笑う。 「前にちゃんとそう言ったじゃない。こう見えて僕、ここの館長だから」  葵咲ちゃんが笑ってくれたことで、少し緊張の糸が緩んだ。  彼女がトートバッグから取り出した本を受け取りながら、そんな軽口も出た。 「次の、借りる?」  返却処理をしながら問えば、 「いいの? もう閉館時間じゃないの?」  今日は新しい本を借りるのは諦めていたのだと彼女は言う。 「平気だよ。まだ十九時(しちじ)になってないし。それに、僕が閉めない限りここは閉まらない」
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