きみを守りたい

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「……ッ。――っ! ひとっ!」  耳元で、葵咲(きさき)ちゃんの声が聞こえる。  停電してしまったのか、真っ暗闇で何も見えない。 「理人(りひと)!!」  不意に頬を包み込む温かい感触がして、僕の意識は急速に浮上する。  気絶してる場合じゃないっ!  今にも泣きだしそうな彼女の声を聞いて、僕はゆっくり(まぶた)を開いた。停電していたと思ったのは錯覚で、電気はちゃんとついていた。  シャットダウンしていたのは僕の方だったか。 「泣かないで……」  唇の上に彼女の瞳からこぼれ落ちた涙の(しずく)が触れて、僕はゆるゆると葵咲ちゃんの頬に手を伸ばした。  意思に反して身体がやけに重たい。それに夏も近いというのにおかしい。なんかちょっと寒いかも……。服も何故か濡れているみたいだし。って、あれ? この階に水道なんてあったっけ?  ぼんやりとした頭で色々考える。  まだよく状況が飲み込めないけど、ひとつだけ確かなことがあった。目の前で葵咲ちゃんが泣いている。それだけで、僕はしっかりしないと!と思えた。 「……大、丈夫、だから」  こんな力ない声で大丈夫なんて言われても説得力がないよね。頑張れ僕。腹から声を出せ!  とりあえず現状を把握したくて身体を起こそうとしたら、葵咲ちゃんに押さえ付けられた。 「動かないで! 理人、頭からすごい血が出てるのっ」  泣きながら必死に僕の頭の傷を押さえる葵咲ちゃんに、ああ、だから身体が濡れて気持ち悪かったのか、と今更のように得心する。 「私、バッグにスマホ入ってるっ……」  言いながら、書架の下敷きになっているトートバッグを懸命に引っ張る葵咲ちゃん。  でもここ、電波が来てないんだ。教えてあげないと。
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