きみを守りたい

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「……き、さき。ね、僕の話を聞いて?」  トートバッグごと棚の下から荷物を引っ張りだすのを諦めたらしい彼女が、隙間から袋の中に手を入れてやっとのことで携帯を取り出すのが見えた。  彼女の操作でディスプレイが明るく光るのを目の端におさめながら、壊れてなくてよかった、と安堵(あんど)する。  僕のスマホは倒れた拍子に何処かに行ってしまったみたいだし。  でも、ここにいたんじゃ、せっかく手にした彼女の機器も、用をなさない。  ……一刻も早く、彼女を安全な場所に逃がさないと。 「ここ、圏外でしょ? ロビーまで出れば電波も通じるし……助け、呼べると思うんだ……。だから……大変だけど、頑張って移動しよう?」  言えば、葵咲(きさき)ちゃんが信じられないという顔をする。 「ヤダ! 理人(りひと)、今動いたら死んじゃうっ!!」  泣きながら僕にしがみついてくる様は幼いころのまんまで。  僕は、懐かしさにふと微笑んだ。 「……大丈夫。僕はそう簡単には死なないよ。呼び出したくせに肝心なこと、ちゃんと話せてないし……それにね……」  そこまで言ってから、葵咲ちゃんの目を見つめてわざとにやりと笑う。 「それに……なにより僕はまだ君を抱いてない……。君とエッチするまでは死んでも死にきれないよ。だから、安心して?」  冗談めかして言ったけど、結構本気。  こんな状況じゃなかったら張り倒されていたかもしれないセクハラ発言だけど、僕が軽口を叩けたことで、葵咲ちゃんの心にほんの少しだけど、ゆとりが生まれたみたいだった。 「理人、本当に大丈夫なの? 立てる……?」
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