きみを守りたい

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 幸い階段には何も倒れてきていなくて、そこからは割とスムーズにロビーまで上がることが出来た。  葵咲(きさき)ちゃんの携帯から救急車を手配して、エントランス側のエレベーターの方に向かう。  緊急事態なのでエレベーターを使うのは危険だと判断して、その横にある、普段はほとんど使われることのない階段で降りようと提案した。  エレベーター横にある、重い鉄扉を開けると、闇に向かって伸びていくように、階段が一階まで続いている。  純粋に一階と七階を繋ぐだけのこの階段は、階ごとに踊り場のようなものはあるけれど、そこに設けられた扉は全フロア施錠されて締め切られている。 「……あと少し、頑張れる?」  葵咲ちゃんに向けて放ったけれど、実際自分自身に向けたものでもあるその言葉。  あと少し……。館外に彼女を連れ出すまでは……頑張らないと。  手すりに掴まって、なんとか身体を支えているけれど、早くしないと……そろそろ限界だ。  そんな状態で七階分を歩いて降りるのはしんどかったけれど、昇りではなかっただけマシだった。  気力を総動員して何とか一階まで下りると、重い鉄扉を開けてエントランスに出る。  先程施錠した、入口のガラス戸を解錠して外に出る。  やっと……外に、出られた。  葵咲ちゃんと並んで図書館の壁にもたれて腰掛けて、救急車の到着を待つ。  外に出て分かったんだけど、被害があったのは、どうやら我が図書館だけだったようだ。館外に広がる構内は、怖いくらい落ち着いていて……拍子抜けするくらいいつも通りだった。  その、当たり前の光景に、僕はふっと気が抜ける。  僕は……高層の建物を(あなど)ってた……。  前にチェックした時、書架の危険性には気付いていたはずなのに。  遠くにサイレンの音を聞きながら、僕は少しずつ視界が狭まっていくのを感じていた。  ――葵咲ちゃん、怖い目に遭わせて、ホントごめん……。
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