目覚めてみると

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 無意識に眼鏡に手を伸ばそうとして、そこで初めて、僕は誰かに手を握られていることに気がついた。  シーツの波間に黒く豊かな髪の毛がうすらぼんやりと見える。 (葵咲(きさき)ちゃん……?)  思いははするものの、こんなに視界が霞んでいては確信が持てない。  もしかしたら、彼女が僕に付き添ってくれていたらいいなぁとか、夢見心地な幻想を(いだ)いているだけに過ぎないのかもしれないし。  自由な方の手を伸ばして眼鏡を取ると、恐る恐る掛ける。  そんな僕の目に、僕の手を握ったままベッドに突っ伏して眠る葵咲ちゃんの姿が飛び込んできた。 「嘘だろ……」  思わずつぶやきが漏れたのも、事が事だけに仕方ないと思う。  あの、僕を避けまくっていた彼女が、僕の手を握ったまま眠りに落ちているというこの状況! 僕はまだ、自分に都合のよい夢を見ているんだろうか。  現実かどうかを確かめたくて、握られた手をそっと握り返してみると、やわらかな感触が伝わってきた。……温かい。  これはやはり現実なのだと確信すると同時に、申し訳ないという気持ちと、何て幸せなんだろうという歓びが、交錯しながら一気に押し寄せてきた。それは、正直かなり複雑な心境で――。  ざわつく心を落ち着けたくて、他に誰かいないかと周りを見まわしてみたけれど、母親の姿も父親の姿もなかった。  大部屋の、カーテンで仕切られただけの空間だから……もしかしたら薄布の向こうに誰かがいるのかもしれない。  でも、彼女の温もりを意識してしまった僕は、徐々にそんなことがどうでもいいと思えてしまうくらい、彼女しか見えなくなっていた。
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