目覚めてみると

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 葵咲(きさき)ちゃんに握られた手からは点滴の管も伸びていて、こちらの腕を動かすのは得策ではなさそうだった。僕は少し身体を起こすと、空いた方の手で彼女の艶やかな黒髪を撫でる。  顔がよく見たくて、頬にかかる髪の毛をそっと耳に掛けると、その気配に葵咲ちゃんが小さく身じろいで目を開けた。  ゆっくりと上体を起こして、しばらくぼんやりと前方を見つめていた彼女の視線が、ややして僕の方を向く。 「……お、おはよう……?」  今が何時なのかは分からないけれど、とりあえず2人とも寝起きだからそう言ってみる。 「……っ!」  その瞬間、葵咲ちゃんがはじかれたように僕に顔を近づけてきた。 (わわっ。ちょっと待って……近いっ!)  自分から迫るのには慣れているけれど、逆は想定外。  いきなりの急接近にどぎまぎする僕を置き去りに、至近距離で僕の顔を確認してから、そこでハッと何かに気づいたみたいに真っ赤になる葵咲ちゃん。 「本当に目、覚めてるんだよね? 夢じゃ、ない……よ、ね?」  言いながら、確認するように自分のほっぺたをぺちぺち叩いてみてから、真実だと分かるとホッとしたように床にへたり込んでしまった。
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