目覚めてみると

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「……葵咲(きさき)!?」  今度は僕が驚く番だった。  慌ててベッドサイドを覗き込むように確認すると、床にぺたっと両足を付けて、いわゆるアヒル座りになっている彼女が目に入った。  急に頭を動かしたことで、頭部がズキリと痛んだけれど、そんなことよりも葵咲ちゃんのことが心配で――。  上から見下ろす形なので顔まではよく見えないけれど、耳が真っ赤なところを見ると彼女は赤面しているんだろうか? でも、何故? 「葵咲……?」  恐る恐る呼びかけてみると、葵咲ちゃんは一瞬びくっと肩を震わせてから、 「せ、先生たちを呼ばないとっ」  さっきはあれほど近くまで顔を寄せてきたくせに、不自然なくらい全く目を合わせようとしない。 (ちょっと待って、僕、何かした?)  視線をわざとらしいくらい逸らしたまま、僕の枕近くにあるナースコールを押す葵咲ちゃんに、どうしても不満が漏れてしまう。 「ねぇ、何でこっち向いてくれないの?」  僕は葵咲ちゃんが、疲れて眠り込んでしまうくらい、長い間ずっと僕に付き添ってくれていたんだと思っていた。違うんだろうか? 「……眼鏡の理人(りひと)、見慣れてなくて緊張するの」  僕から視線を逸らしたまま、葵咲ちゃんがボソリと呟いた。 (マジか……)  その後はナースコールで事情を聞いて駆けつけてきた看護師さんが、担当の先生を連れてやってきたり――。  たまたま同じフロアの休憩コーナーで休んでいたという両親が、息子が目覚めたという知らせを受けて、僕の顔を見に駆けつけてきたり――。  葵咲ちゃんと二人きりになれたあの数分間が幻だったのではないかと錯覚を覚えるような、バタバタとした賑やかな時間が流れた。
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