青葉書店

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青葉書店

 あるうららかな春の日に、3才くらいの女の子をつれた女性がやって来た。 ここは青葉書店の駐車場。 市内中心部からかなり南にある、小さな町の本屋さんだ。 この辺りには、本屋がここともう一軒ある。 それはここから車で10分の所にある大型ショッピングモールの中で、キャラクター商品をどっさり置いてあるブックストアー。 とても繁盛しているようだ。 こちらの青葉書店はご近所の皆さんが暇潰しに来てくださる、気楽な書店だ。 「さあ、青葉ちゃん。今日はどの本が良いかな?」 そう言って、先程の女性が店内に入ってきた。 彼女は山ノ上貴美子。時々幼い子供と一緒にここを訪れ、必ず自分と子供に1冊ずつ本を買って帰るのだった。 1冊は子供の絵本、もう1冊はガーデニングや花の本。 今日もその2冊を買って帰っていった。  彼女の子供の名前は゛青葉ちゃん゛である。 青葉ちゃんの母親は、この本屋に学生の頃から良く通っていた。 少女漫画の月刊誌や音楽雑誌、たまに昔から読み継がれているベストセラーの文庫本とかを選んでいた。 その頃からのお付き合いなので、昔からいる店員のおじさんにもとてもなついていた。 「おじさん、私ね、就職したのよ。」 「おじさん、彼氏ができたのよ。」 とても人懐こい彼女だった。  「おじさん、私結婚しました。近くにすむのでまた本買いに来ますね。」 数年前彼女はそう言った。 「それはよかった。おめでとう。幸せになるんだよ。」 彼女の成長を見守ってきた店員は、心から末永い幸せを願った。  近くに住むといっていた彼女だが、しばらくの間書店に顔を出さない時期があった。 久しぶりに青葉書店を訪れた彼女は、いつものように店内をぶらぶらと歩いている。 そして、目に留まった本のページをパラパラとめくりながら少し見て、気に入ったのか手に持ったまま次の本を探している。 会計をすませに来た彼女は、 「おじさん、実は私実家に戻ってきちゃったの。 色々あって…。」 「……。 そう言うこともあるさ、あなたが元気でいられるならそれが一番いいよ。」 ほんの一言二言のやり取りだったが、二人ともとても暖かい気持ちになった。  次に彼女が青葉書店を訪れた時、小さなよちよち歩きの赤ん坊をつれていた。 「おじさんこんにちは。この子青葉って言うんですよ。 青葉書店みたいにのんびりゆったり暖かい。そんな人になってほしいと思って。」 「ほー。本屋から名前をとるなんて聞いたことがないけど、良い名前だよね。」 とても嬉しそうにおじさんは言った。 彼女は絵本と花の本を買い、 「また来るね。」 と言っていた。  
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